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映画『アイヒマンの後継者』マイケル・アルメレイダ監

映画『アイヒマンの後継者』マイケル・アルメレイダ監督
アイヒマンアイヒマン・・・いうまでもなく大戦中、ユダヤ人を強制収容所に送り込んだ元ナチス親衛隊中佐アドルフ・アイヒマン。戦後、南米アルゼンチンに逃亡、イスラエルの諜報機関によって発見、拘束後、密かにイスラエルに連行され裁判に掛けられた。その裁判の模様は世界中に配信された。1961年のことだ。
 そして、表題の「後継者」とは誰だ、ということになるが、それは「あなた」であり、親兄弟姉妹でもあり、上司でもあり部下でもある・・・つまり、誰でもアイヒマンになりうる可能性があることを科学的に実証した実験「ミルグラム」の実録ドラマだ。
 映画はほとんど大学構内の限られたスペースで展開する。密室劇といっていいぐらい閉鎖的、動きのない地味な作品だ。しかし、その実験はおそろしい結果を出す。被験者たちの心の波動は「悪の凡庸さ」の象徴するものだった。

 アイヒマン裁判とほぼ歩調を合わせるように米国イェール大学でおこなわれた瞠目すべき人体実験。ユダヤ系米国人の社会心理学者スタンレー・ミルグラムは、「何故、ホロコーストが起きたのか、人間は何故、権威に服従してしまうのか」という人間存在の基層に潜む謎の解明に向け、「電気ショック」を用いての実験を繰り返す。この実験方法は、被験者の精神そのものに傷を負わせる疑義があるとして学会から名指しで批判されたものだ。おそらく民主国家であれば、このような実験は今後、許されないだろう。1960年代、大戦の傷痕が癒えない時代であり、冷戦の真っ只中という時勢が実験を許容したのだと思う。この実験は、発案者の名をとって現在、「ミルグラム実験」という固有名詞を与えられている。

 ミルグラムはさまざまな立場の市民、男女問わず、実験の意味を問うことなく、偽の「電気ショック」機械を使って実行した。その機械は実際に機能しないのだが、被験者は機会が作動していると信じて参加する。実験の前に、謝礼が払われるリアリティーが被験者に「義務」を負わせるのだろう。わずかな金でも人を強いるものになるという実験であるかも知れない。クイズ形式で、解答をまちがった者、つまり悪意のない人に向かって、元来、遊びの要素でしかないクイズとは知りながら、段階的に「電気ショック」の強さを増していくボタンを押しつづける。なかには、こんなにショックを与えつづけると大変なことになると拒否する者も出る。しかし、そんな人はごくごく少数派で、自らに嫌悪感を抱きながらもボタンを押しつづける。
 実験終了後、ミルグラムは被験者に、「なぜ電気ショックを与えつづけたのですか」と問いかける。被験者はたいてい、「俺は途中でやめたかったが。つづけろと言われたから」と答える。他の被験者もみな、自分は抵抗して、自らの意思ではしていない、と強調した。それは裁判で自己弁明したアイヒマンの答えと同じものであった。
 実験で示されたデータは、「一定の条件下では、誰であろうと残虐行為に手を染める可能性は大きい」というものだ。むろん、それでアイヒマン裁判の審理に影響を与えたわけではない。ただ、ナチズムの犯罪の過半は、ハンナ・アーレントが主張した「悪の凡庸さ」を示したことになる。
 ミルグラムを演じたピーター・サースガード、彼の恋人役にはウィノナ・ライダーが配されいる。助演陣には演技派の名優たちが据えられ、小さな空間のなかの心理劇に奥行きを与えている。サイコキックなサスペンス映画をみるより実録の劇化として本作は恐ろしい。
*2月下旬、東京・大阪で公開。

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