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映画 『サラエヴォの銃声』  ダニス・タノヴィッチ監督

映画 サラエヴォの銃声  ダニス・タノヴィッチ監督
ポスター
 監督は、デビュー作『ノー・マンズ・ランド』(2001)でボスニア紛争を一方の勢力に組みしない視点で真摯に今日のあるがままの人間の問題として描いた。当時の国際社会は、旧ユーゴスラビアの解体とともにはじまったボスニア紛争をもっとも深刻な悲劇として注視していた。スロベニア、クロアチア、コソボ、さらにマケドニアまで飛び火し、それらの紛争のいずれにもセルビアが関与した。西側からの視点でいえばセルビア民族主義は悪の権化のごとく見られていた。そういう時勢のなかで『ノー・マンズ・ランド』、オスカーの外国語映画賞をはじめ多くの国際映画祭で賞賛された。
 
 余談だが、東日本大震災でヨーロッパにあって、もっとも早く慈善活動をはじめ義捐金をあつめたのはセルビアの人たちであったことは記しておきたい。

 すでに3年前のことになるが、クロアチアのアドリア海沿岸のスピリッツ空港でレンタカーを借りてボスニアに入国する個人旅行をしたことがある。サラエヴォや、激戦地となった地方都市にも足を延ばした。ここで、その旅の詳細は書けないが、本作の舞台となった場所にもいっている。
 サラエヴォの街を歩き、ドライブしながら思ったことを正直に書けば、復興が驚くほど早い、というものだった。中米にながく暮らした私は内戦で疲弊したニカラグア、エル・サルバドル、グァテマラで辺境部まで足を延ばしているが、その尺度から言えば、クロアチアも含め、復興の速度はやはりヨーロッパの国である、という当たり前だが今更ながらに思い知らされた。基本的に国民の教養度、政治家たちの文化度、内戦以前の国全体のポテンシャルの高さは、そのまま内戦後の復興事業を後押しすることになったものと思った。
 第一次世界大戦の引き金となったサラエヴォ事件は、小さな川に掛かるプリンツィア橋を渡った市街地の切れ目で起きた。セルビア青年がオーストリア皇太子を暗殺した事件だ。その場所はいまもそのまま保存され、近くの建物の壁にはプレートや事件当時の写真や新聞コピーを掲げている。橋の片側は公園となっていて、なかなか感じのよい界隈で、その公園の北側に広がる坂の多い市街地のなかに日本大使館がある。そのあたりはサラエヴォの旧市街でいまでもイスラム系ボスニア人、正教徒のセルビア人、そしてユダヤ人などが行きかう。紛争中は、この界隈にも砲弾が打ち込まれ、現在でも焼け跡がくろぐろとしたオベリスクとなって取り残されている。しかし、サラエヴォは中米基準でいえば外観 はすっかり復興しているといって良いだろう。
 映画のほぼ9割の撮影場所となったホテル・ヨーロッパは紛争中、おおきな被害を受けたところで、それでも外国記者が取材のベースを置いていた。そのホテルも再興され本作をみていれば良くわかるが、傷跡ひとつ見出せない感じだ。
 現在のボスニア=ヘルチェゴビナは一見、静穏である。しかし、ほんとうは危うい平和が保たれているといってよいだろう。この国は首都サラエヴォだけでなく、みえない国境線が引かれている。映画ではそれは語られていないが、現在のこの国はセルビア人が主たる住人とするスルプスカ共和国が存在している。世界地図には図像化されることはないが、この見えない国には国旗もあれば国章もある。2つに分断されているのだ。平和と危機は背中合わせに存在し、サラエヴォ事件の成否もまた否定と肯定が共存している。そうした複雑・錯綜した状況のなかで日々、生きてゆく市民にもそうした矛盾はなんかの影を落とす。それは表面化することもあれば、沈降したままでいることもある。映画は、サラエヴォ事件から100周年を迎えた式典を主題にした戯曲を、さらに増幅させて群像サスペンスにしたものだ。カメラがたえず俳優たちの背を追うように揺れる画面はドキュメントのリズムを与え、現実感を与えている。
 この映画をみているとボスニアに生きる人たちは現在もなお「平和」のなかで居心地の悪さを味わっているような気がしてならない。舞台となったホテルから車で15分ほどのところにサラエヴォ冬季オリンピックのメイン会場となったスタジアムがあるが、内戦中、市街戦で犠牲となった人たちの臨時の墓場となった。いまは近くの墓地に移されているが、その墓石の建立がほぼ同年ということの悲劇性がサラエヴォを覆っているように思えてならない。そういう重苦しさを映画をみているあいだ、私はずっと感じていた。
 タノヴィッチ監督は、結論なんて指し示さない。問題提起の監督である。現在社会を真摯に考えようとする人たちへ素材を提供する創作家である。
 *3月25日、東京地区公開予定。

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