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水資源の深刻さを反映した007シリーズ『慰めの報酬』 マーク・フォースター監督

水資源の深刻さを反映した007シリーズ『慰めの報酬』 マーク・フォースター監督
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 007、ジェームズ・ボンドといえばスコットランド(と時勢をかんがみ、そう書いておく)の名優ショーン・コネリーによって英国映画のヒット・シリーズとして定着できた。だから、彼がボンド役を降りてからは等閑視してきた。現在のボンドはダニエル・クレイグが勤めるが、コネリーの陽性なキャラクターは、すっかり陰性に換わった。
 東西冷戦という枠組みのなかで活動を開始したコネリー・ボンドだったが、ベルリンの壁が消えた後の“敵”は錯綜し見えにくくなった。英国のスパイとしての007もときに米国CIAや、従来の西側の組織とも対立することなった。本作でも、007は英国の エージェントを殺してしまう。陰性になるのもまた仕方がない。
 “敵”は多国籍企業であったり、コンシアームであったりする。巨大な資金をもち八岐大蛇のように右にも左にもなびく頭をもつ組織が利権を求めて暗躍するとき、国境は失われ、刻々刻苦と変化する経済状況によって、昨日の味方は敵へと移行する。要するにグローバル経済下でのスパイ活動にはイデオロギー的信念は毀損される。
 2008年の旧作に属する007を敢えてここで書いておこうと思ったのは、南米ボリビアの水問題が主要テーマになっていたからだ。現実にボリビアでは水問題は大きな政争を惹起した。南米は水資源にゆれる地域である。それを世界的なヒット・シリーズのなかで語られたということで、記憶されるべきだと思った。本作を紹介し批評する数多の文章のなかで、ボリビアの水 問題に言及するものが見当たらなかったからだ。おそらく映画批評をなりわいとする方の多くは、映画で描かれた先住民の苦境は映画のなかのエピソード、こんな極端なことあるわけはないと思う方が多かったのだろう。現実はより深刻である。そのあたりは拙著『南のポリティカ』あたりを読んで欲しい。トランプ大統領のツィターではないが、マスメディアは読者のニーズにそってしか現実を報道しない。
 もう5年以上前のことになるが、配給会社アップリンクがドキュメント映画祭を短期間開催したとき、その1本でボリビア問題を取り上げた1作があり、そこでコチャバンバ市の公営事業たる水道事業を多国籍企業によって民営化する計画が取り上げられていた。その記録映画は一般に普及することはなかった。その意味では、007の一巻、本作は貴重なのだ。
 2008年といえば、コチャバンバ市などの水道事業の民営化推進に反発する住民らの抵抗が流血の騒動になり、そうした運動を背景に同国ではじめて先住民出身の大統領が誕生していた。けれど既得権にしがみつく保守層は現実に新大統領に対して力で抵抗していた。007は元来、その新大統領の政権を崩壊させる側につくはずだが、ダーティーなイメージにするわけにいかなかったのだろう。現実の推移を無視したシナリオを作って、水資源を独占しボリビアを牛耳ろうという得体の知 れない組織に対立するボンドの活躍を描いた。
 その意味では対立構造がよくいえば錯綜、悪く言えば支離滅裂。しかし、世界は“国益”むき出して蠢いている奇態な有機体になっているとのメッセージと思えば、色々、納得のゆくところがある。ボンドはゆえに陰性にならざる得ない。その意味ではダニエル・クレイグは適役なのだ。

 本作のボンド・ガール、オルガ・キュリレンコはウクライナ出身の女優さん。ミラ・ジョヴォヴィッチに次ぐ同国出身の女優として充実した活動をしているが、ボリビア白人独裁者の娘という役には少し無理があると思った。オルガが悪いのではなく、ボリビアを相変わらず“黄金の便器に座る国”と揶揄した冷戦期の時代感覚でかの国を描いた制作サイドの問題だろ う。水問題は借りたが、先住民大統領を誕生させたボリビア国民の思いはまったく無視されているのは所詮、ロンドンに治外法権的な金融ゾーン「シティ」を守らなければならない英国諜報員映画の限界であろう。スコットランドのショーン・コネリーが007を退職するのも止む終えまい。

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