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映画評  『カラヴァッジョ』

 16世紀晩期に生きたイタリアの画家カラヴァッジョ、37歳を一期とした生涯もまたそのようなものだった。ありていに言ってドラマチック、それも過剰なぐらいでまさに疾風怒涛と駆け抜けた。
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 太く短く、充実した生を……かつて、それが青年男子が求める理想的な生き方だと謳われた時代があった。それは至難な事業だから、あえてそういう言葉を発する必要があったのだろう。
 太く短く、本人にとって「充実」した生涯であったとしたら、彼をとりまく凡庸な人間たちはさぞ無理難題を吹っ掛けられ迷惑至極と苦い顔をつくってしまうというものだ。モーツァルトがそうだった石川啄木もそうだった。時代の天才は、またその時代の常識のなかで亀裂を深め、近くの凡人たちは理解しがいため対処に苦慮するのだ。
 16世紀晩期に生きたイタリアの画家カラヴァッジョ、37歳を一期とした生涯もまたそのようなものだった。ありていに言ってドラマチック、それも過剰なぐらいでまさに疾風怒涛と駆け抜けた。ゆえに映画の主人公にはうってつけの存在であるのだが、その生涯がドラマ化されたのは本作がはじめてらしい。ふと思えば美術全集の数巻をイタリアの天才たちが占めるほど画家・彫刻家の宝庫にあるに関わらずイタリアで映画化された芸術家はひじょうに少ない。ミケランジェロの映画といえばチャールトン・ヘストンのハリウッド映画を思い出すぐらいで、「モナリサ」のダ・ヴィチの映画も知らない。世界有数の映画大国イタリアが自国の天才たちに無関心であるはずがない。もし、描きにくい事情といったことを忖度すればヴァチカンの視線か?カルヴァッジョもまた教会の権威を侮り、表現欲求の前に聖人たちの聖性もあえて無視した。ヴァチカンの保守的な枢機卿がみたら眉を顰(しか)めたくなるような映画であるだろう。ということではイタリア映画人の勇気をまず讃えたい。そして力作だ。133分いささかも退屈させない。
 しかし、画家が生きた時代のイタリアは面妖だ。この国が現在、われわれが知るような国となったのはやっと19世紀中葉のこと。それ以前は地方勢力が四分五裂でいがみ合っていた。カルヴァッジョはそんな時代の混沌とした世情を抜きには語れない。そして、映画はその世情を象徴化するためにカラヴァッジョの絵を借用している。つまり光と闇のコントラストの強い色調でスクリーンを染め抜いた。これは撮影監督のヴィットリオ・ストラーロの巧みな計算が効を奏している。かつてコッポラ監督の『地獄の黙示録』を担当した、といえばなんとなく気配を感じていただけるだろう。こうしたスタッフに支えられてカルヴァッジョ役のアレッシオ・ボーニも熱演する。どういう熱さかといえば、恵まれた才能をもちながら、内にかかえた野性を飼いならすことなく自滅してゆく男の悲劇ということだ。
 カルヴァッジョの名が美術史に燦然と輝いているのはルネサンスの高揚がマニエスリムと呼ばれる独得な身体表現が不均等でありながら劇的効果をもたらす様式美を生み出して終焉した後に、徹底した写実主義であたらしい美術の窓をこじ開けた画家であったからだ。そして、時代先行者の栄光は価値紊乱の汚名も引き受ける。
 その意味でも映画は代表作の制作余話と「アレクサンドリアの聖カタリナ」に高級娼婦をモデルにしたというふうに描き、「ロレートの聖母」では小間使いの少女をモデルに立たせた、と語る。また、「果物籠をもつ少年」のモデルは画家の不良仲間であったとする。美術史的には違和感があるが映画的真実として効果的をあげている。
 37歳の若さでカルヴァッジョは犯罪者として斬首された。20代で画家としての盛名をあげたのだから世渡りの上手であれば一大工房を営むこともできたはずだ。しかし、人間は思うようには行動できない。
 カルヴァッジョにとって創作力のエネルギーは生活の享楽を源泉としたようだ。それはどうにも制御できない。人間は誰しもそうしたデーモンを多かれ少なかれかかえて持っている。そして、芸術家はそのデーモンが与えるインスピレーションに帰依する。時としてそれは横暴で残忍だ。そして、芸術の達成とともに芸術家は自壊してゆく。そういう画家のありかたを映画は語りたかったようだ。
(月刊「ラティーナ」2010年 月号掲載)

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