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映画『ペルシャ猫を誰も知らない』 バフマン・ゴバディ監督

映画『ペルシャ猫を誰も知らない』 バフマン・ゴバディ監督
映画 ペルシャ猫

 表題の「ペルシャ猫」とは映画の主人公であるイランは首都テヘランの若きミュージシャンのアダナ。
 ご存知のように同国はイスラム・シーア派の原理に基づいて、政治から文化、日常生活いっさいが著しく制約されている。しかし、それを「制約」という言葉で言ってはいけないだろう。国民の大半がシーア派教徒であれば「制約」も宗教的献身の証しとして積極的に受容されるものだ。が、しかし……という疑問符を打つところから、この映画は出発している。
 音楽は精神活動を乱すものとして厳しく制限されている。すでの音楽は当局の許可をえて、はじめて公的な場での発表がゆるされる。したがってCDの発売など至難、イラン産ロックはあっても存在しないことになっている。存在しないものはコンサートもでないわけだから、“幽霊”たちは非合法、ゲリラ的にやるしかない。〝幽霊”は神出鬼没だ。それも演奏者、観客問わず当局に逮捕される覚悟で、だ。意外と思われるかも知れないが、いっけん表現活動に寛容なメキシコでもオリンピック直後の数年、ロックがそんなふうに抑圧された時期があった。
 イランにだって活きの良いラッパーはいる、存在自体が反体制なロックもある、外国の人間が「誰も知らない」なら、俺が告知してやるとバフマン・ゴバディ監督はカメラを執った。その監督の前傾姿勢はスクリーンの四隅に躍動感をもたらしている。
ストーリーは単純だ。
 ロック歌手志望のネルガという少女と、そのボーイフレンドのアシュカンは表現の自由な活動を夢見てロンドン行き目指す。遵法な手続きではパスポートは入手できない。なら違法な手段に訴えても、手に入れてみせると、テヘラン裏社会への伝手を求めることも厭(いと)わない。映画は、ネルガはアシュカン、ふたりの目を通してアンダーグランドなもうひとつのテヘランの光景が〈音〉を通じて立ちあらわれてくる。
 イラン音楽といえば日本で想像されるのはたいていシーア派の戒律のなかでわずかに許された伝統音楽ぐらいなものだ。とくに反米主義者で現在、核開発を公然と政治日程に入れているアフマディネジャド政権下であってみれば、欧米のポップスと共鳴する〈音〉の存在などあるはずがない、と思っていた。しかし、イランの若者も自由への渇望感は「健全」であった。ロックもあればジャズもあり、若者の不満を過激な歌詞で取り上げるラッパーもいる!! 伝統音楽を現代的なフィーリングで解釈して演奏する若者もいれば、フィージョン系の音まである。つまり表現欲求はいたって健全であり、それを支える聴衆も存在することを知った!!! そうした層が先の大統領選挙で野党候補に大量の票を与えたことが、本作を通し、臨場感をもって理解できる。
 しかし、バフマン・ゴバディ監督がまさかこんなアクティヴな音楽映画を撮るとは予想だにしなかった。
 世界的な賞賛をあつめた『酔っぱらった馬の時間』(2000)にしても『わが故郷の歌』(2002)、『亀も空を飛ぶ』(2006)にしても監督自らの出自であるクルド民族の誇り、あるいは悲劇、そして逞しさをクルド語で撮りつづけてきた才能だ。彼が描く世界は周縁部、電化も満足にされていない僻村に収斂していた。とうぜん、そこに流れる時間のリズムはゆるやかであり、スクリーンにはたえず土の匂いがたちこめていた。
 『亀も空を飛ぶ』の日本公開にあわせて来日した際、インタビューする機会があって親しく話したが、その印象も朴訥なものだった。そんな監督がニューヨークのラッパーや、レゲトンの前衛をドキュメントするようなノリ、米国産のミュージック・クリップと見間違うほどの映像処理で一編のドラマを制作したのだから驚きだ。完成度もすこぶる高い。これはまったく思いがけないことだった。
 しかし、本作を撮った代償として監督として仕事をしていく道は断たれた。アフマディネジャド現政権下では生活ができなくなった。
 この国では映画制作用のカメラは政府に帰属し自由に使えない。そういうことも本作を通して知った。ゆえに現政権下では仕事ができない。監督は、退路を閉ざして本作を撮ったのだ。ただ、禁じられた〈音〉をスクリーンに解放しただけではない。偽パスポート作りのシンジケートなどテヘランの闇社会を肯定的に描き出しているところも当局の逆鱗に触れたはずだ。
 監督は事実上、政治亡命をすることになった。イラン人によるイラン人のための映画でありながらイランで公開されることはとうぶんありえない。それでも監督は表現欲求を抑え切れなかった。リスクを負った。芸術のデーモンともいえる。また、社会的使命感の為せる業とも……。   

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