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映画『君を想って海をゆく』 フィリップ・リオレ監督

映画『君を想って海をゆく』 フィリップ・リオレ監督
映画「君を想って海をゆく」

 筆者が住む埼玉県蕨市は日本でもっとも多くのクルド人が住む町である。そのほとんどがトルコのクルド人居住区から来た人たちだ。男性のほとんどが建物の解体業に従事しているといわれる。かれらは本国の家族などに手紙を書いたりするときに蕨市をワラビスタンと表記したりしているようだ。
 トルコに住むクルド人を描いた映画というと故ユルズマ・ギュネイ監督の一連の作品を思い出すが、本作『 君を想って海をゆく』はイラクからフランスにやってきたクルド難民たちの話だ。最近、映画に描かれるクルド人といえばイラク、イラン領内に住む被抑圧民族としての彼らであり、そうした国から逃げ出した難民の話が多い。この映画もまた、イラクから流亡したクルド難民の話だ。フランス最北端の港町カレが、いまドーバー海峡を渡り英国に密入国しようとして果たせないクルド難民がおおぜい〈吹き溜まり〉、困窮していることを本作ではじめて知った。
 カレとは、ロダンの「カレーの市民」の偶像の町である。上野の国立西洋美術館の前庭にもある「カレーの市民」像。ロダンは殉死する前の市民たちを造形したが、現在のカレでもっとも苦悩しているのはクルド難民たちだろう。カレではそうした難民を家に招くこと、車にピックアップすること、当たり前の「親切」、人道とかそういったことではなく、人間が人間であるための善意にすら罰則規定があることも映画で知った。サルコジ政権下のフランスでは「自由・平等・博愛」が日々、侵されている。排他的な民族主義的な感情をもつ政治家であったサルコジが、大統領に就任すれば起きうると予測されたことが、見事なまでに実現しているということだ。
 主人公のクルド難民の少年ビラル(フィラ・エヴァルディ)はサッカーが得意で、英国に渡ってマンチェスター・ユナイテッドの選手になることを漠然と夢見ている。サッカー少年なら誰しも夢見ることだ。しかし、そうした遠い夢想ではなく、少年には現実的な願望があった。英国に一家そろって移住してしまった恋人にあうためイラクからビザなしのまま陸路4000キロを旅してきたのだ。それはいったどれだけの困難があったことか……それだけで一編の叙事詩となる。しかし、ユーラシア大陸の端、ドーバー海峡を前にして英国への密航は失敗し、最後の手段として泳いで渡りきろうと無謀な計画を立てている。
 ただサッカー少年ビラルの泳力はおぼれない程度。そこで、なけなしの金をはたいてスイミングプールに通いはじめる。このスイミングプールで、少年は冴えない中年コーチと出会う。妻マリオン(オドレイ・ダナ)に愛想をつかされ離婚することになっている夢も希望もうしなった中年男シモン(ヴァンサン・ランドン)。かつてフランスを代表する水泳選手であった彼だが、かつての栄光は優勝カップも錆びつく郷愁に過ぎない。妻に離婚され人生なんの目標も見出せなくなったとき、恋人のため冬のドーバーを渡りきろうともがくクルド少年と出会ったのだ。その姿はあまりにも眩しい。シモンは自嘲していう。「4000キロも歩いて恋人に会おうという少年もいれば、目の前のきみにも手が届かない自分がいる」と。
 恋愛の距離とは神の領域なのかも知れないし、政治はその距離を無慈悲に引き延ばす。
 「難民」は私たちがなにげなくやり過ごしていることも、ときに生命を賭して取り組む難事業となる。ユーロ圏の人間にとってドーバー海峡約30キロを往来することはなんの支障もない。しかし、クルド難民はビザなしであるがゆえそれもままならない。ビラルはもっとも監視の目の行き届かない海を泳ぎ切ろうとしている。シモンも少年の熱意に、自分から失せしまった情熱を取り戻すように物心両面で手助けする。その「手助け」がフランスでは罪になる。映画は、フランス政府は「基本的な人間的価値を尊重していない」と告発する。右派のサルコジ政権を批判する。
 ビラル少年は冬の海峡を泳ぎ切ろうとする直前、英国の監視艇に捕捉され、海を逃げ惑っているうちに溺死してしまう。

 メキシコ、グァテマラ及び中米諸国の米国大使館前には連日、入国審査をうける市民で長蛇の列となる。日本人なら機内で配布される入国申請書を書けば事足りる。ヨーロッパ諸国でも同じこと。けれど南の国のほとんど大半の市民はそれができない。そして、不法越境のため陸路をとり米国南端の国境は連日、そこかしこで犠牲者がでている。ドーバーでもジブラタル海峡でも起きている。  
 ▼12月18日、シネマ有楽町他でロードショー公開後、全国上映に。

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