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映画『天国の青い蝶』レア・プール監督  コスタリカのモルフォ蝶の美

映画『天国の青い蝶』レア・プール監督  コスタリカのモルフォ蝶の美
新・天国の青い蝶


 北杜夫さんのエッセイ集『どくとるマンボウ昆虫記』は少年の熱中とはにかみを綴った自伝だ。その終章で、中央アメリカの熱帯雨林に住むモルフォ蝶へのあこがれを語り、「いつか訪れてみたい」が、どうも叶えそうもない夢だと述べていた。『昆虫記』は1961年に出版された。その後、日本は高度経済成長期に入り80年代にはバルブという狂熱期を迎えた。北さんが『昆虫記』を書きついでいた頃の日本は貧しかった。持ち出せる外貨にもきびしい制限があった。中米の密林で蝶を追うなど極め付きの贅沢なことだった。しかし、時代は劇的に変わった。北さんもコスタ・リカを訪ね、あこがれのモルフォと対面しているのかも知れない。
 ぼくの少年時代だってコスタ・リカといえばとてつもなく遠い遠い、はるか彼方に位置する夢のまた夢のなかの秘境のようなものだった。いまでも絶対的な距離は変わらないけれど、飛行機はより早く旅費も安くなった。という意味では、もはや「夢」の地ではない。この映画で映し出されるコスタ・リカはニカラグア国境地帯の僻地であって、秘境ではない。ぼくも小学校へあがる前の息子を連れて訪れている。この国で秘境といえるのは、かつてスピルバーク監督が『ジュラシック・パーク』の舞台とした絶海の孤島ココぐらいだろう。観光局が「秘境」と宣伝しても、本土にはそんなところはない。しかし、本作のような映画は、「秘境」は興行成績をあげる良き刺激材料であるらしい。
 お話自体は心温まる善意にあふれている。しかも、実話だという。奇跡、は実在するらしい。
 余命2、3カ月と宣告された末期ガン患者のダヴィド少年にはひとつの願望があった。生きている間に飛翔するブルーモルフォ蝶をみたい、というもの。少年とその母は、昆虫学者にその思いを告げる。私設博物館を開館させて間もない初老の昆虫学者は、「モルフォの季節はもう終りだ」と拒絶する。けれど少年の熱意と、その痛ましい境遇にほだされてコスタ・リカに飛ぶことに。熱帯雨林に住む先住民ブリブリ族の集落を本拠地にしてモルフォ蝶を追う。モルフォの輝きは、少年と、仕事に熱中するあまり妻子と離婚したという疵を負う昆虫学者、そして夫を交通事故で失い今またガンで息子を奪われようとしている母、三者三様の〈奇跡〉の癒しの日々となってゆく。その癒しが神秘的なメタリックブルーの美しい蝶に仮託される。
 熱帯雨林での日々……モルフォの光輝が……奇跡を平俗な言葉では語れないから、自然美に仮託する。少年のからだからいつの間にかガン巣が消えていた。くりかえすが実話だという。
 ぼくもペルー・アマゾン産のモルフォ蝶と、採取地不明の標本2点を持っている。ガラスケースに密封された蝶は、いささかも退色せずメタリック・ブルーに輝きつづけている。アマゾン産はメラウスモルフォという。映画のダビッド少年は、そうした標本をみているうちに、実際に飛ぶ姿を見たいと思うようになったのだ。尽きようとする自らの生命に最後の輝きを与えるように。人は誰だって、標本ではなく、空の青に溶け込んでゆく蝶の舞いみたいと思うものだ。
 少年が自分の手でモルフォの奇跡を掴みたいと思う心は、群百のコレクターの思いとは違う。自分の肉体が滅びよう、無に帰そうとしている刹那の絶対的な孤独を慰めるものなど存在しない。少年にとって、飛翔するモルフォとは天国へ魂を導いてくれる天使のように思えたのだろう。この映画、小さな狂気である蒐集に熱中する者になにか襟を正してくるような真摯さがあった。
 しかし、〈主演〉として登場するモルフォはなんだか物分りが良すぎるように思う。蝶の女王として孤高の毅然さが欲しかった。モルフォは熱帯雨林を遊弋の庭とするきままな女王である。
 
 北さんが少年時代、熱狂してあつめた幾多の昆虫標本は東京大空襲であっという間に、感傷で突き動かされる暇もなく燃え尽きた。   

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