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美術(フランス現代史)書評  『パリは女 セーヌ左岸の肖像』アンドレ・ワイス・著

本書の著者アンドレ・ワイスもまたパリ・セーヌ川の左岸界隈に1920年~30年代に生き、活動した女たちの存在を知り、それをエッセイ的年代記に仕上げた。
 たとえば森まゆみさんは谷津・根津・千駄木という江戸の名残りをとどめる坂の多い界隈、けっして広くはないのだが、そこを散策して豊潤な文化・美術エッセイを書きつづけて、いわば森ワールドなる世界を創造した。本書の著者アンドレ・ワイスもまたパリ・セーヌ川の左岸界隈に1920年~30年代に生き、活動した女たちの存在を知り、それをエッセイ的年代記に仕上げた。

 本筋から離れるが個人的興味から掛け替えのない挿話として記憶にとどめたものを書く。ピカソの初期の代表作で現在はニューヨークの近代美術館に収まっている「ガートルード・スタイン像」の制作逸話、ジェームズ・ジョイスの『ユリシーズ』刊行の経緯などが詳細に記されていること。またグルジアの神秘思想家グルジェフの著作は、時代の潮流に鋭敏であった人たちのあいだで注視されていたことなどを知った。それだけでも本書を読んだ価値がある。 著者ワイスが醒めた熱情といったペンで綴った女たちの生涯、そこに登場する個性の結実を画家マリー・ローランサンをのぞいて知らなかった。スタインの名もピカソのモデルとして知っているだけで、その作家としての仕事は知らなかったし、知ろうとも思わなかった。シューナ・バーンズ、ナタリー・バーニー、シルヴィア・ビーチ、アドリエンヌ・モニエ、マーガレット・アンダーソン、ジャネット・フラナー、ジゼル・フロイント、ロメール・ブルックス……といった女たちのことが書かれているのだが、みな初見である。であるから色眼鏡なしで紐解くことができた。そして、なるほどと思い、考え、当時のパリの自由な気風、ボヘミアンたちの闊達な活動を知ったのだった。
 今秋、ココ・シャネルの評伝映画がつづけて2本公開された。内容はともかくシャネルの成り上がってゆく時代の雰囲気をそれぞれの映画で映像化されているので、なんとはなしに本書を読みながら行間を映像で埋めながら読んでいた。音楽でいえばエディット・ピアフか……。シャネルの登場も、女が自分の着衣の主体になるべきだ、と宣言したことがいちばん大きな歴史的意義だと思うが、本書に登場する女たちも、女である自分が売りたい本をならべる書店を開業し、刊行する意義をおぼえた著作を出版したいから大きな犠牲を払っても出版する、書きたい小説を旧習に囚われずに書き、描きたい絵を描きたいように描き、開発途上の写真の表現方法を拡張しながら撮る……ということを主体的に選びとった。そこには相応の苦労があり、人間関係の綾があり軋轢も生じる。そういうことを女の視線から愛情をもって描き出す。愛情はあるが湿っぽい情感は排されている。
 そして、ここに登場する女たちは同性を愛し、愛しつづけて生涯を駆け抜けた。このあたりの批評能力は残念ながら筆者にはない。本書の重要なキーに違いないが、それを添景として眺めつつ読んでも本書の芸術的博物誌の魅力はまったく衰えない。それだけ多層な刺激に富む。
2009/10/23. 

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