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長倉洋海 ・写真展「微笑みの降る星 ~ぼくが出会った子どもたち」

長倉洋海 ・写真展「微笑みの降る星 ~ぼくが出会った子どもたち」
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 会場に大きな世界地図のパネルがあって、長倉さんが取材した国に印がついていた。
 赤道をはさんで帯状にその印は並んでいた。
 アフリカから中東、南アジアを通り、太平洋を横断して中米地峡にいたる。米国やロシア、西欧諸国がまったくの空白である。それが長倉さんであり、関心領域のありどころを示している。いわゆるサミット諸国はたとえ興味があったとしても、その地を訪れる時間を割く暇があれば、民衆の涙のあるところ、そこはまた最高の笑顔があるはずだ、という思いに駆られるのだ。あるいは地球が「微笑みの降る星」になるためには、地球がもっとも膨らんだ部分に住む子どもたちが平和に過ごせるような、そして飢えのない社会にする必要がある。それが本展のメッセージだ。
 長倉さんのフォト・ジャーナリストの姿勢がきまったのは中米エル・サルバドルの内戦の取材の日々、すさんだレンズを癒すように向けた子どもたちの笑顔のなかにあった。それは自他とともに認めるところだ。中米の内戦国であったグァテマラも取材しているが、そこでは正直言ってみるべき作品は少ない。そしてアフガニスタンがありパレスチナがある。近年のコソボでの難民一家を追ったフォトストーリーをみていると初期のひたむきさが消えているように思う。和みがあるのだけど、長倉さんの近作は穏やかであって、切迫感のようなものはない。エルサルの子どもたちを撮っていた頃とは、まったく違った地平を歩みはじめているようにおもう。
 三越百貨店(日本橋)という江戸の繁栄期に創業され、日本の豊かさを象徴してきた老舗の本店で、北の先進国の豊かさを下支えるするために犠牲を強いられている途上国の、そのまたもっとも弱い立場におかれている〈子ども〉たちの姿、「笑顔」が主題の写真群で長倉さんの仕事を回顧するという試みは少々、皮肉をこめていえばシュールだ。同店では同時開催として英国フェアなるものが開催されていて、それこそスペインの無敵艦隊を破って以後、海洋の覇者となって世界各地をに植民地帝国を築き、繁栄した消費文化そのものが長倉写真と併置されているのだ。
 〈子ども〉と山カギをつけて書いたのにはわけがある。
 年齢でいえば確かに、子どもである。しかし、先進諸国の子どもが、その時代を、まず食の心配をせずに過ごすこと、飢えず学校に通え、日々の着替えをもち、銃弾が飛んでくる心配もないところで過ごす同時代、長倉さんの〈子ども〉は腹を空かしながら働き、服は汚れ着替えもなく、いつ流れ弾に当たって死ぬかもしれないという日々におかれていた。それは、たとえばユニセフが基準をもうける児童の人権保護という数値が示すものとは縁遠く、幸薄い子どもらとなる。〈子ども〉であって子どもでない存在。けれど、そんな子どもも笑顔を忘れているわけではない。その笑顔をこぼすきっかけを失いつづけているだけだ。笑顔は尊い。偽らない笑顔だけが子どもの証しとなる。長倉さんはそんな笑顔に魅了されて世界を歩きつづけているのだろう。
 その〈子ども〉の笑顔に具体的な政治的メッセージがあるわけではない。……ないのだが指のあいだから細かい砂のように零れ落ちてしまいそうな、「幸福」への希求を受け止めてほしいという発信を受け取らないといけないのだ。そして、それを頭でなくハートで受け取ってくれ、と長倉さんは主張している。そういう心の豊かさ、遠い国のこどもたちへ心を傾ける感受性を枯渇させないで欲しいと訴える。即効性など期待できない。しかし、指し示していかなければ見えない過酷は無数にあるのだ。長倉さんの写真をみるとき、筆者はいつも自分の感受性がリトマス試験紙に浸されるような思いにかられる。そして、グァテマラに過ごしていたころ、先住民の女の子たちが外国人観光客をめがけて素足で掛けより、手持ちの小さな伝統手芸を売り込むすがたを想い出すのだ。貧しい国のまずしい少女たちはいちばん過酷な生涯を過ごす。十代で結婚し、母親となり、たちまち若さを失ってゆく。長倉さんが撮った女の子たちもまた例外ではなかった。そんな少女たちの成長過程をもっとも丹念に撮りつづけたのはエル・サルの地であった。長倉さんの仕事はエル・サルの地で発芽し、成長していき、そして社会的な評価を受けた。しかし、その地の民衆はまだまだ貧しい。故郷を離れて米国で働き、送金する越境者の数はずば抜けて多いのだ。その意味では長倉さんも北の先進国の底辺に入り込んだ取材をする必要があると思うのだ。 (2009・秋)

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